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エビデンスを根拠とする医療とEBMの違い
No205n (2013/08/09)
 発売以来、国内で1兆2千億円を売り上げた製薬会社ノバルティスファーマの高血圧薬「ディオバン」は、降圧効果だけでなく、脳卒中や狭心症にも効果があるとされてきたことが売り上げに与えた影響が大きい。しかし、薬の臨床研究に参加した二つの大学から、効果の根拠となった臨床研究のデータに何らかの人為的な操作があったとする調査結果を発表し、医学界内外に大きな衝撃が走っている。そもそも高血圧の薬を服用するのは血圧を下げるためではなく、脳卒中や心筋梗塞のリスクを下げることが本来の目的であるから、今回の報道の重大性ははかりしれない。  ひるがえって高血圧治療ガイドライン2009では、正常血圧が130/85未満とされたが、その一番の根拠は1961年から福岡県の久山町で続けられている臨床研究のデータである。千人あたり一年間に脳卒中を発症する率が、収縮期120-129または拡張期80-84では8.9であるのに対し、収縮期140-159または拡張期90-99では23.8と2倍以上のリスクがあることに基づいている。ここで注意すべきは、見方を変えれば血圧が高くても正常でもそのほとんど(1000人中970人余)は発症していないともいえることである。
 しかし、治療にあたる医師は臨床疫学の結果を“エビデンス(根拠)”として、患者の年齢や生活習慣、一人ひとり異なる病状を考慮せずに安易に降圧剤を処方しているケーズが少なくない。血圧は精神的な要因で一時的に上昇し、深呼吸によって簡単に低下する。肥満が血圧上昇の原因である場合は、適正体重にするだけで血圧は下がる。ちなみに、動脈硬化の危険因子は多数あり(高血圧 高脂血症 糖尿病 肥満 喫煙 運動不足 ストレス 男性 加齢 遺伝因子 A性格)、高血圧はその一つにすぎない。
 EBM(根拠に基づいた医療)はすでに本欄で紹介されているように(EBMとは :新しい診療理念No001r;2003/07/25)、「エビデンスを根拠とする医療」とは似て非なるものである。エビデンスは、臨床研究の結果である。統計上の平均値にすぎない。これに当てはまらない人がむしろ大部分といっても言い過ぎではない。対するEBMは一人ひとりの患者に対して何が一番良いのか検討する、患者に応じた個別の医療である。エビデンスがあるということと、その治療を受けたほうがいいかどうかは、必ずしも同じではない。つまり、エビデンスは最良の医療を導き出す情報の一つにすぎない。
 EBMを長年にわたり、第一線の医療現場で実践してきた名郷直樹医師が今回、こうしたことを分かりやすく解説した本を出版した(『後悔したくなければ「医者のいいなり」はやめなさい』 日本文芸社 2013年)。一般向きに書かれたものであるが、医療に携わる医師も是非、一読し、自らの診療を振り返ってほしい。
TI
   エビデンスを根拠とする医療EBM高血圧治療ガイドライン2009 | 動脈硬化の危険因子 | ディオバン
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