HOME 医療ニュースバックナンバー 医療ニュース No242n

医療ニュースバックナンバー

動脈硬化は若い時から始まる-今からでも遅くない、危険因子を避ける生活習慣を-
No242n (2015/06/26)
 粥状動脈硬化で惹起される代表的な病気は急性心筋梗塞である。急性心筋梗塞は中年期以降に起こる。男性に多いので一家の大黒柱が突然死亡することもある。動脈硬化は成人病だと言われてきた。しかし1950年代に冠動脈硬化性の変化は若年者にも観られるとの画期的な報告が成された。それは動物実験ではなく、ヒトについてである。朝鮮戦争中に戦死した若い米国兵を解剖した病理専門の軍医の報告である。戦死者は20歳台の若い兵士達なので、生前施行されていた健康診断で異常は無く、なかには心電図も正常であった者もいる。その兵士の冠動脈の内腔が50%位狭くなっている例が多数発見された。これで分かったことは、冠動脈硬化は若い時から始まり、その腔が半分位に狭くなっても心筋に虚血のための異常は現れず、心筋の予備力はかなり大きいということであった。後に民間航空機の事故で死亡したパイロットなどの乗務員の剖検でも同様の結果が報告された。
 10歳台でも脂肪沈着のある軽い動脈硬化巣が見られるとの報告がある。アメリカでは全米に跨る多研究機関を動員して10歳台後半から30歳台前半の若い人達を調べている。その対象は病死例ではなく、突然死や他殺例が多い。検体の収集はシカゴで行われことが多かったので、私もシカゴのMedical Examiner Office(日本での監察医務院に相当)を訪ねたことがある。麻薬取引の争いでピストルによって射殺されたハイティ―ンの死体がごろごろ安置してあったのには驚いた。Patho-biological Determinants of Atherosclerosis in Youth(若年者の粥状動脈硬化症の病理・生物学的決定因子。略称PDAY;PAY DAYは給料日のこと。これに掛けた略語)がその研究班の名称であり、研究は10年以上に渡って継続して行われた。
 日本でも乳幼児から20歳までの小児・若年者の解剖例について多機関協同の総合研究が行われた。太い動脈以外の病気例えば白血病や小児特有の癌で死亡した患児の病理解剖で大動脈、冠動脈及び脳動脈について調査された。小児・若年者の病理解剖は、悪性腫瘍に因る例が多く殊に白血病では化学療法で治療されたり食欲がなくなるので、アメリカで開催された国際学会で発表した時「それらの影響によって動脈硬化は軽くなるのでないか」と医療記事を担当している新聞記者から聞かれたことがある。「アメリカとは違い、日本は安全な国なので若い人が殺されることは少なく病死例しか解剖できない」と答えたことを覚えている。
 若年の時に発生した動脈硬化巣がどのように発育してゆくのかについては詳細なことはは分らない。しかし、加齢、高脂質血症(特に高コレステロール血症、高い低比重リポ蛋白 (Low density Lipoprotein, LDL) 血症、低い高比重リポ蛋白 (High Density Lipoprotein, LDL) 血症)、高血圧、喫煙、糖尿病、高尿酸血症、肥満等々が危険因子として挙げられ、これらは食事内容、運動不足などが大きく影響するので、これらの危険因子から遠ざかるような生活習慣を数十年に渡って日常的に保つことが予防になる。
 粥状動脈硬化が若いときに発生し、それが心筋梗塞、脳梗塞、大動脈瘤、下肢壊疽など重篤な疾患を起こすまでには10年、20年、30年など10年単位の長い年月を必要とする。重篤な疾患が起こってから後悔しても後の祭りだ。重篤な疾患に襲われるまでの数十年に及ぶ時代は殆んど無症状なのでsilent diseaseと呼ばれ、突然心筋梗塞を発症すればsilent killerとなる。
 粥状動脈硬化はある程度進行していても、これらの危険因子を避けるための食事内容や適度の運動によって適正な生活習慣を保ったり、血清コレステロールを低下させる薬剤,降圧剤、抗血液凝固剤などの服用によって軽快、退縮する。これはウサギの実験でも、ヒトのシネ動脈造影法でも証明されている。 中年〜初老期に入ったからといって、喫煙を止めないというのは良くない。例え60歳からでも遅くない。
 余談として、後期高齢者になれば血清コレステロール値は高い方がその後の余命は長いという北欧のデータがある。細胞膜はコレステロールが重要な構成成分だからだろう
IS
関連記事サイト内検索  :記事の最後のイニシャルをクリックすると、同じ著者の記事を検索できます。
       :キーワードのリンクをクリックすると関連記事を検索できます。