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慢性疲労症候群の病名変更
No258n (2016/03/18)
 慢性疲労症候群、chronic fatigue syndrome(CFS)は、原因不明の全身倦怠感、微熱、関節痛、筋痛、頭痛、精神神経症状、睡眠障害など、多彩な症状を呈する慢性疾患である。しかも臨床検査で異常が認められないので診断が難しい。そのためこれまで世界各国で多くの診断基準が提案されてきた。その中で最も有名なのは、1994年に米国疾病管理予防センター(CDC)が発表したものであるが、世界で認められた訳ではない。何年経っても研究者間のコンセンサスが得られないのは、万人を納得させる客観的なバイオマーカーが見つからないからである。
 こうした状況にあって米国保健福祉省は、国立衛生研究所(NIH),食品医薬局(FDA)、CDCなどに協力を要請して、全米科学アカデミー(NAS)の1部門である米国医学研究所(IOM)にCFSの新しい診断基準の作成を指示した。IOMでは15人から成る委員によってこれまでのCFSに関する全データを収集し詳細に検討し、2015年2月に新しい診断基準を発表した。要約すると,@原因不明の疲労感が新しく発症し、休息しても軽快せず6か月以上続くA活動した後の体調不良B不快な睡眠、の3条件と、認知機能低下あるいは起立性不耐症(立っているのが辛い)のいずれかがあればCFSが疑われる、というのである。これまでよりかなり甘い診断基準になった。これまでの診断基準でも一部の精神疾患(うつ、不安障害、身体表現性障害など)との鑑別が難しいと言われてきたが、これでは更に区別がつかなくなることが危惧される。
 今回の米国IOM報告書でもう一つ特記すべきことは、CFSという病名を変えたことである。新しい病名は、Systemic Exertion Intolerance Disease(SEID)である。和訳するのが難しい。それはexertionという単語が日本語で分かり難いからである。exertionを辞書で引くと、「努力、尽力、奮発」とあり、ここで使いたい「労作、作業」という意味はない。直訳すると「全身性努力不耐症」となって何の意味か分からないし、「努力に耐えられない病気」と誤解されかねない。
 そもそも以前から米国にはCFSという病名を変えたいという声があった。fatigue(疲労)という用語が米国では「怠け者」と誤解されるというのである。 そのために英国学派が使っている病名、筋痛性脳脊髄炎myalgic encephalo―myelitis(ME)と一緒にして、CFS/MEと言うのが一般的であった。今回のIOM報告書にも病名変更の理由が「CFSという病名は、stigmatization(汚名を着せられること)、trivialization(軽視すること)という意味に取られるから」と明記されている。
 わが国では慢性疲労症候群という病名を臨床の現場で用いてそういう意味での問題はなかった。それを今、改めて「全身性活動(労作)不耐症」と変更することに、患者も医師も違和感を感じるのではないかと懸念する。IOM報告書をいち早く報告した英国の名門医学雑誌Lancetは、2015年2月21日号で “What’s in a name?”というタイトルの論説を掲載した。この文言は シェークスピアのロメオとジュリエットの中の一節「名前なんかどうでもよい、名前に何の意味があるのか?」を引用しており象徴的に思える。今回のIOM報告書に対して世界のCFS研究者がどう反応するか今後注目したい。
NH
   慢性疲労症候群 | 全身性労作(活動)不耐症 | CFSIOM | SEID
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