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個別化医療と遺伝子検査
No275n (2017/03/03)
 患者一人ひとりに合わせた医療という意味で、個別化医療(personalized medicine)、オーダーメイド医療、精密医療(precision medicine)、ゲノム医療という言葉をよく耳にする。遺伝子解析技術の急速な進歩によって個人の遺伝子情報を医療に適用すれば、より良い効率的医療が実践できる可能性が見えてきたからである。
 疾病と遺伝の関係は秘密のベールに包まれていただけに古くから強い関心がもたれ、主に疫学的研究であったが臨床研究も盛んだった。最近は遺伝子解析検査が日常の臨床検査項目に取り入れられるまでになり(日本の保険診療では36疾患・144項目、欧米では4,600項目以上)、遺伝子導入治療も実用化目前である。「個別化医療」では遺伝子情報の収集がすべての出発点になるので、各国は競って独自の医療革新戦略のもとに個別化医療プロジェクトを立ち上げ、患者や健康人からの全遺伝子情報(ゲノム情報)の収集に努力している(例:疾患ゲノムバンク;日米は30万人規模目標。健康人前向きコホート研究;先進各国で10〜50万人規模。いずれも複数の研究班の取り組み)。日本は、遺伝子研究面ではリーダー国の一つであるが、遺伝子解析に基づくいわゆるゲノム医療は緒に就いたばかりで医療インフラ(拠点病院、専門スタッフ、検査精度管理、等)の整備も不十分である。特に稀少疾患や感染症・生活習慣病志向のインフラ作りはやや立ち遅れており、国家プロジェクトとして厚労省・経産省などの「ゲノム医療実現推進協議会」などを中心に行動計画が進行中である。
 同じ疾病でもすべてが遺伝子に原因があるわけではない。 治療薬でも患者によって効果があったり副作用があったりする。それらを解明するために従前から医療サイドによる遺伝情報収集が先行してきたが、最近は医師が関与しない各種の遺伝子解析がビジネス化されている。いわゆる「消費者向け遺伝子検査(DTC遺伝学的検査、direct to consumer genetic testing)」である。遺伝子検査の迅速化と低廉化が、いろいろな懸念をはらみながらも遺伝子ビジネスを誕生させ、日本だけでも既に数百社が存在するという。この検査は、消費者の依頼によって医療行為を伴わない方法で得られるサンプル(爪、毛髪、唾液など)を解析してその結果を提供するサービスである。診断や治療が目的ではなく、肥満や循環器疾患など多要因性の体質や素因の情報を得て将来の健康維持に備えるのが目的であるといわれている。費用は数万円から約50万円以上である。費用以上に重要なことは、検査結果の解釈、依頼者への結果の伝達、依頼者の利・活用、データの保管、検査機関の精度管理など、担保すべき課題が多い。
 究極の個人情報である遺伝情報は、倫理的問題はじめ課題が山積している。ために遺伝子ビジネスや研究に関して経産省や日本人類遺伝学会など内外の官産学の機関からガイドラインや勧告が出ている。17年5月施行の改正個人情報保護法でもゲノム情報が保護対象に指定された。1865年のメンデルの法則、1953年のワトソン・クリックのDNA二重らせん構造の発見以来、膨大な研究と技術の蓄積に支えられて発展してきた遺伝学であるが、人間の医療への適用に先立って越えねばならないハードルが数多く残っていることを忘れてはならない。
RT

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