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新しい診療理念

減胎手術の是非
No106r (2013/08/23)
 双子以上の多胎児を妊娠したとき、異常のある胎児を選んで胎児数を減らす「減胎手術」が、これまでに36例行われていたことが報告された。長野・諏訪マタニティ・クリニックの根津八紘院長が8月5日に公表した。 減胎手術は多胎妊娠の母親に、妊娠22週未満で胎児数を減らして出産させるために行われる手術である。胎児の健康状態を調べる出生前診断技術の進歩により、こうした手術を容易に考えることも問題の背景にあるように思われる。本年4月にはダウン症胎児などの診断が、簡単な血液検査だけで分かる新型出生前診断が国内の5施設で始まった(医療ニュース「出生前診断と命の選別」2013年1月11日、 0194n)。
 諏訪マタニティ・クリニックのホームページによると、同病院の減胎手術は妊娠10−11週の時点(過ぎても妊娠22週未満)で、胎児に塩化カリウム液を注入して心停止(死)に至らしめる方法をとっているという。妊娠初期では胎児の異常は分らない。同病院の発表によると、今回、減胎手術を行った36例中、ダウン症などの染色体異常が25例、残る11例は胎児水腫だったという。
 人工妊娠中絶について規定している母体保護法では胎児の異常を理由にした中絶は認めていない。しかし減胎手術については特に定めていない。厚労省審議会は平成12年、母子の健康に危険がある場合に限って手術を認める報告書を発表したが、胎児の異常を理由に中絶をすることは認めていない。確かに多胎妊娠は母子ともに出産に伴う死亡率が高くなり、妊婦の合併症のリスクも高くなる。一方、不妊治療のために排卵誘発剤を用いると起こり易い多胎妊娠は、1年間に1000件以上発生しているというから、多胎妊娠に対する予防対策も重要な課題である。
 倫理的に問題となるのは、残されて生まれて来た子供に対し将来、親は減胎の事実を説明できるのかどうか、一方、子供にとっても自分は生まれてきたが、他の兄弟姉妹が犠牲になった事実をどう受け止めるかのか、問題は深刻である。そもそも出生前診断においてダウン症がなぜこれほどターゲットにされるのかと嘆く倫理学者は多い。出生前診断を受けて異常が見つかったら直ちに中絶といった風潮が出来てしまうことは恐ろしい。弱者切り捨ての思想はあってはならない。出生前診断による意思決定は親だけの問題ではなく、胎児こそ当事者である。しかし胎児は意思決定が出来ない。「生命の重さ」について国民的議論が必要である。
NH
   減胎手術 | 出生前診断 | 多胎妊娠 | ダウン症 | 命の選別
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