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新しい診療理念

がん放置療法について
No107r (2013/09/20)
 がんの三大治療法といえば、手術、放射線治療、抗がん剤であるが、第四の治療法として近藤 誠医師が薦める、何もしない「がん放置療法」が注目されている。近藤医師は慶應大学医学部放射線治療科の医師であるが、1996年『患者よ、がんと闘うな』(文藝春秋)を出版し大反響を呼んだ。その後も一貫して、固まりを作る固形がんの9割は抗がん剤は効かないことを訴え続けている。
 さらに近藤医師は、がんには早い時期にさまざまな臓器に転移して命を奪う“本物のがん”と、転移しないで命に支障のないがんがあるとし、これを“がんもどき”と名づけている。ちなみに、最新の分子生物学分野の研究で「がん細胞には、できるとすぐ転移する能力があるものがある」ことが明らかになっている。この理論によると、がんは大きくなってから転移するという従来からの考えは修正が必要であり、「早期発見・早期治療」だけに頼ったこれまでのがん戦略は、早晩見直しが必要であるとなろう。がん医療界に警鐘を鳴らしたという点で、一定の功績があったのではないか。
 近藤医師の外来には治療を拒否した多くの患者が受診するようになり、がんを放置するとどうなるか、その実態が著書になっている。(近藤 誠:がん放置療法のすすめ 患者150人の証言 文春新書 2012)。それによると、がんを放置した患者は150人以上、最長23年生存している。初診のとき病院に歩いて受診し、1年以内になくなった人は皆無。がんの中でも悪性といわれるスキルス胃がんになり、ふつうに仕事や好きなことを続けて、3年から9年も生きた人が何人もいるという。この成績は近藤がん理論を症例提示によって具体的に示したことであり、もし可能であればアカデミアの世界で信頼性が高い統計学的推計が加えられるべきであると考える。
 近藤氏のがん理論は、医学界では異端視され一般に受け入れられてはいないが、長年がん診療にかかわった高名な外科医である小野寺時夫医師のように近藤理論を基本的に正しいと認める医師もいる。氏はがん専門病院である都立駒込病院で副院長を務め、外科医として5000人以上のがん治療をした後、ホスピス医に転身した。小野寺医師は、以下のように述べている(別冊宝島2000 近藤誠のがん理論 2013)。 『がんは発生したときから運命が決まっているといってよく、手術してもダメなものはダメ。手術しなくてもノンビリタイプは長生きする。早期がんは、放っておくと進行がんになるわけではない。がんは放置したから転移するのではなくて、できたときから転移をおこすものはおこす。がんの経過は百人百様なのでごくたまに例外があり、早期胃がんが進行がんになることもある。固形がんのすべてが手術や治療の対象にならないとは思っていない。抗がん剤が効く場合は、劇的に効く。だから、効かなかったらすぐやめる、早期の判断が肝心である。』
 高齢者のがん診療においては、CGA(高齢者総合機能評価)を適応したうえで、原則として治療をしないのがいちばん苦痛が少なく、長命であることが多いであろう。しかしがん治療を受けるか受けないかは各人の自由と言われても、日本人は「治療しない」ことに耐えられない。がんだと知りながら放置することは、強靱な精神を持ち、自分自身で生き方を決められる自律性を持った人でなければ不可能である。
 わが国は豊かで長寿、60年以上にわたって平和が続いたために死が遠くなり、自分自身の死生観を持つことを避けてきた。そのために拠り所がなく医療にすがるともいえる。その意味でがん治療の是非を考える前に、自らの生き方を問い直す必要があるのではないか。
TI
   がん治療法手術放射線治療抗がん剤 | 放置療法
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