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アニサキス(anisakis)線虫症と最近の話題
No123r (2015/05/29)
 アニサキスという線虫の幼虫が胃癌のがん組織の中に見つけられ、この線虫は癌に惹かれて移動するのではないかと考えた研究者が居る。そしてがん患者さんの尿に向かってこの幼虫が移動する現象を観察している。このことから尿を調べることでがんの発見に役立つのではないかと研究を続けているという報道がなされている。がん細胞から未知の物質が分泌或いは代謝産物として出され、それを線虫が感知してがん組織の方へ動いて行くという趨化性があるとのことで、大変興味のあることである。数年後には、尿で癌の存在を検出できる検査法が開発されるかも知れない。
 その報道を見て、48年前の1967年に私が大学院生であった頃、アニサキス幼虫に感染した症例5例を、学内の学術誌に報告したことを思い出した(*)。幼虫は2〜3pの長さ、太さは1oの半分位である。アニサキスの最終宿主はイルカ、鯨などの海に棲む大型動物である。これらの動物がさば、にしん、かつお、いか等を生食して感染するらしい。これらの小型魚類はアニサキスの中間宿主である。ところが人間、特に日本人はお刺身をよく食べるので、生きたアニサキスの幼虫を食べて感染する。1967年に私は5例のアニサキス幼虫感染例を見つけて報告した。1例は肺性心で亡くなった患者さんの剖検で偶然胃の粘膜に隆起している部分を見つけ、それがアニサキス幼虫感染症であった。他の例は胃或いは回腸の手術症例であった。当時のことだから手術前に診断は確定しておらず、胃のポリープとか虫垂炎の診断で手術されたものである。
 1955年にアラスカのエスキモーの便からアニサキス幼虫を発見した人がいるが、この時には人間に病気を起こすかどうかについては明らかでなかった。プランクトンとして海に浮遊している線虫の卵を中間宿主となる小型魚類は食しているらしい。アメリカに居た時、ハワイ大学に勤務していたことがあり、セミナーで教員にこの話をしたことがある。日系人の多いハワイなので、大変興味をもった教員が居た。
 アニサキス幼虫が胃腸の壁の中に迷入する場所は、胃と回腸末端が多い、胃の場合はポリープ、時には胃癌を疑われる。回腸の場合は痛みを伴えば、虫垂炎或いは限局性回腸炎と診断されることが多い。最近では内視鏡検査が発達して、この幼虫を抓み採ることが出来る。
 私は未だがん組織の中に入り込んだアニサキス幼虫を見たことは無いが、半世紀を経て癌の検出に役立つかも知れないとの報道を見聞きして、研究と時の流れとの関係に感慨一入である。勿論、魚を干物にしたり、煮たり焼いたりして食べれば大丈夫である。1967年にこの話を恩師にしたところ、「刺身もよく噛めば大丈夫だろう」と、言われた。刺身をぐちゃぐちゃ噛んで美味しいのだろうか。刺身とチューインガムとを混同した味も素っ気もない話だと思った。
(*)Sakurai,I.:Gastrointestinal anisakiasis. Nihon Univ J Med 9(4):409-417, 1967
IS

               アニサキス | 寄生虫宿主 | 癌の検出 | 趨化性
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