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過敏性腸症候群
No125r (2015/08/21)
 過敏性腸症候群は、代表的な機能性腸疾患の一つで、腹痛あるいは腹部不快感とそれに関連する便通異常が慢性もしくは再発性に持続する状態である。有病率は約13%で、女性が男性に比べ1.6倍と高く、好発年齢は20-30歳代であるが、男性では管理職になる年代、女性では更年期を迎える50歳代にも多くみられる。感染性腸炎後の発症率は6-7倍増加し、全体に占める感染性腸炎後の割合は5-25%と推定される。病態に関連するものとしてストレス、腸内細菌・粘膜炎症、神経伝達物質、内分泌物質、心理的異常、遺伝がある。ストレスを感じると下痢や便秘などの便通異常が起こり、便通異常による痛みや不安感が脳の活動に影響を及ぼす、いわゆる脳腸相関が深く関与している。便秘型、下痢型、混合型、分類不能型の4つに分類される。男性では下痢型、女性では便秘型が多い傾向がある。
 本症では、試験や大切な会議などの前、それが始まるとトイレに行きにくいなどのストレスを感じる状況で症状が現れる。そのため、日常生活に支障をきたし、患者さんの生活の質が著しく障害されている。常にトイレの不安を抱えており、例えば、電車に乗ることができないと訴える患者さんも少なくない。
 本症には、同じ機能性疾患である機能性ディスペプシアや胃食道逆流症などが合併することが多い。
 診断基準としては、腹痛あるいは腹部不快感が、最近3か月のなかの1か月につき少なくとも3日以上を占め、下記の2項目以上の特徴を示す。(1)排便によって改善する。(2)排便頻度の変化で始まる。(3)便形状(外観)の変化で始まる。これらの条件の上に、悪性腫瘍や炎症性腸疾患などの器質的疾患を除外することが必要である。潰瘍性大腸炎、クローン病などの炎症性腸疾患では、排便によって症状が改善しないことが特徴である。
 本症と器質的疾患を区別する診断において、血便は警告徴候として有用であり、家族歴の聴取、血液・尿・糞便の検査、大腸内視鏡・大腸X線検査は有用である。症状日誌、質問票による症状の程度把握は診断・重症度分類・治療効果判定に有用である。日誌などで患者さんの行動パターンと症状の関連性が分かれば、その行動パターンを改善する方策を検討する。
 治療は病態生理の理解、良好な患者・医師関係が重要である。治療の目標は患者自身の評価による症状改善である。食事と生活習慣改善、優勢症状の消化管主体の治療薬物(ポリカルボフィルカルシウム、5-HT3受容体拮抗薬など)の用量を勘案しながら4-8週間続ける(第1段階)。効果が見られない場合、器質的疾患を再度検査し、本症と再び診断したならば、中枢機能の調節を含む治療(抗うつ薬、抗不安薬を含む)や症例に応じ漢方薬、抗アレルギー薬などを、用量を勘案しながら4-8週間続ける(第2段階)。これらの治療で効果が見られない場合、心理療法(弛緩法、催眠療法、認知行動療法などを含む)を行う(第3段階)。生活習慣の中で本症の患者さんでは交感神経が緊張状態となっているため、ジョギングやヨガなどによりリラックスすることも有用である。
SS

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