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腫瘍の名前は変わることあり
No127r (2015/12/11)
 腫瘍の名前の多くは病理組織学的所見からつけられている。癌のような悪性腫瘍の特徴は、@放っておくと留まることなく発育する、Aリンパ管や血管の中に入って離れた臓器・組織に転移をする、B周りの正常組織の間に浸潤して増殖するので、正常組織と癌組織の境が明瞭でない、と言うことが原則であり、挙句の果てには宿主である人間そのものを殺す。良性腫瘍はある大きさになると発育は止まり、遠隔転移をすることは無く、正常組織との境界は明暸である。この原則を基にして良性か悪性かの判断がなされ、腫瘍の名称が付けられている。それは顕微鏡下で観察される病理組織診断に拠っている。
 しかし、医学・医療の長い実践の間に矛盾が生じる。病理組織診断は形態観察であるので、稀には生き物としての病気の本態との間に矛盾が生じていることに気付く。その例として代表的なものを紹介しよう。1.甲状腺の腺腫は良性腫瘍であるべきだ。何故なら“腺腫”は良性で、悪性ならば腺癌と定義づけられている。ところが”転移性甲状腺腺腫”と言う不思議な病名がでてきた。これは、腫瘍の形態が大人しく良性に見えるので、”腺腫”と診断していたのが、数年〜十数年後に転移を起こした例が経験されて、この奇怪な名称が考えられたのである。恰も“外面如菩薩、内面如夜叉” の如くである。これとは反対に“外面如夜叉、内面如菩薩”の腫瘍もある。乳腺に、今では“葉状腫瘍”と呼ばれている腫瘍がある。この腫瘍は、過っては“葉状肉腫“と呼ばれていた。葉状とは顕微鏡で見ると、羊歯の葉に似た構造が観察されるために名づけられ、且つその構造は乳腺の正常構造からかけ離れ、発育のスピードが速く、巨大な塊となるので、悪性と判断されて”肉腫“と言う名前が世界中で通用していた。しかし長い年月の間に多くの症例を経験すると、この腫瘍の多くは転移しないことが分かった。しかし転移は皆無ではないので“葉状腫瘍”と呼ぶこととなった。
 私は、甲状腺の近くに存在していたリンパ節の生検で、リンパ節の中に甲状腺の濾胞組織を見つけ、臨床医に甲状腺を調べてもらったところ、微小な濾胞性腺癌を発見したことがある。転移した癌を見つけた時には、その源である原発巣を探すのも病理医の役割の一つである。
 その他にも、昔は横紋筋肉腫と呼ばれていたものが、今では悪性繊維組織球腫と変わったり、悪性リンパ腫のうちの細網肉腫と呼ばれており、繊細な繊維をつくる組織球由来と思われていた悪性腫瘍はリンパ球由来と考えられるようになり、従来の悪性リンパ腫の分類はがたがたと崩れ、極めて複雑となっている。
(参考:医療ニュース 医学用語 腫瘍その1 No.028腫瘍その2  No.032
IS

    腫瘍肉腫甲状腺癌乳腺葉状腫瘍
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