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高齢者の年齢定義変更ニュースを聞いて
No138r (2017/01/24)
 日本老年学会が、高齢者の定義年齢を65歳以上から75歳以上に引き上げると発表したことが少なからぬ波紋を広げている。65歳から74歳は准高齢者とする由である。少子高齢化で社会制度の転換期真只中の日本ばかりでなく、寿命の延伸でその対策に追われている現代社会の重要な課題への一石と考えられるが、目的や根拠など詳細な提案の発表が待たれる。
 わが国での老人の定義は大宝令(701年)の定めが最初である。課税(租庸調制度)のための戸籍の制定時に数え年61歳以上を老丁(女性は老女)、66歳以上を耆老(耆女)として以来千余年間、我々は60歳の還暦から77歳の喜寿の期間を経ながら真の老人になると思ってきた。現代では1963年の老人福祉法やWHOなどの国際機関が満年齢65歳以上を高齢者と定義して世界の高齢者対策の行政的基準となっている。
 医学的観点からは、人の発育・発達や老化及び疾病の自然史の上でのエポックとして、周産期、新生児期、乳幼児期、思春期、青壮年期、閉経期(厄年)等の年齢区分が生物学的根拠を基に使用されている。言うまでもないが、人は成長・高齢化するにつれて、生活習慣や社会環境など多くの要因の影響によって健康状態の個人差が拡大する。数十年前と比較してより健康な人の割合が増加しているのは事実である一方で、有病者・受療者も多い。人口10万人当たりの死亡率も65歳以上は65歳未満に比べて倍増する。
 新聞等にみる反応では、労働能力のある高齢者の雇用に対する肯定的な意見と、不確実な高齢者への医療保障や年金支給に及ぼす警戒が主であった。つまり、生物としての誕生から死までの区切りという理解ではなく、医療制度・社会保障制度など社会医学的命題に属する提案として受け止められたことが窺がえる。
 医療の進歩の観点からは、ここ当分は就労可能な高齢者の割合は増加するであろう。そのような人を受け入れて活用する「高度な福祉的雇用環境を創出すること」は有用である。80年代に55歳で退職した労働者を第2の人生の働き手として受け入れて深夜勤を含む3交代制24間連続操業のベンチャー工場が手厚い福利厚生条件の下で業績を伸ばした事例があった。一方で、高齢者定義の変更は、軽度の所見がある患者予備軍への配慮、疾患名の増加や変更、臨床検査や診療基準等への影響も生じるであろう。また、高齢者のがん治療、医療保険・介護保険制度、先端医療の適用条件なども再検討されるかもしれない。このように高齢者の定義・規定は、社会的存在としての人の生涯晩期の幅のある便宜的な区切りとして柔軟かつ聡明に対処する用語として扱うべきである。
 いま世界は、人口の増加と高齢化に直面して医療や福祉の課題が山積している。日本の歴史人口学研究において、少子高齢化と人口減少は家族制度の変化を伴って数世紀の長期にわたって持続すると推定されている(鬼頭宏著「人口から読む日本の歴史」、講談社学術文庫、2000年)。高齢化は予測可能であるが制御は困難であり、少子化改善は国民の無言の適応反応で予測困難であろう。現在の政治課題である「若者の雇用促進」「働き方改革」「賃金上昇」は、水面下で医療制度と密接に繋がっていると言える。高齢者の定義がどうであれ、要は自分自身の寿命の限界を自覚して、自然体で自分の「生」を全うする意思と工夫が大切であると思う。
RT

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