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「再生医療」にまつわるお話
No143r (2017/07/14)
 再生医療の根幹は幹細胞の発見及びそれに続いた幹細胞の人為的な作成である。幹細胞の名称は太い木の幹を意味し、幹から枝分かれする多数の枝は別々の細胞系統即ち違った組織に分かれる状態を意味している。1975年に造血幹細胞が骨髄において発見されたのを始まりとする。この幹細胞は血液の種々の細胞に分化し発育する。赤血球の寿命は約120日という。今、私の体内を流れている赤血球は生まれた時に持っていた赤血球とは入れ替わっているのだ。赤ちゃんの臍帯血にはこの造血幹細胞が含まれているので、臍帯血は骨髄血と共に白血病治療後の造血に活用されている。
 考えて見れば、女性の卵子1個が男性の精子と合体し(受精)、無事に妊娠が継続すれば、あらゆる臓器、組織を持つ一人の人間を創る能力を秘めている。実際に人間の卵巣、精巣から奇形腫群と呼ばれる腫瘍が発生することがある。奇形腫群は様々な種類に分類され、良性から極めて悪性のものまで存在する。良性の代表的なものは、毛髪を持つ皮膚、脳組織、脳脊髄膜、気管・気管支、脂肪組織など様々な組織が1個の腫瘍の中に混在するもので、悪性のものは、将来どの組織になるのか判断困難な未熟な細胞群あるいは胎盤の栄養膜細胞に似た悪性絨毛上皮腫に似たものなど様々な腫瘍が発生することがある。この事実は多くの病理医は経験的に知っており、悪性のものは病理診断に難渋する。
 末梢神経の腫瘍と思われていたが、極く稀に末梢神経腫瘍のなかに骨格筋組織が混在している腫瘍が人間にも存在している。このことは病理医や整形外科医の間では知られていた。その不思議な腫瘍はトリトン腫瘍と呼ばれる。トリトンという名称はイモリのような両棲類toriton salamanderに由来する。この両棲類には正常な軟部組織の中に末梢神経と骨格筋が混ざり合って存在している部分がある。私はクロアチアの地下洞窟内で展示されていた生きたtoriton salamanderを見たことがある。今になって思えば、このトリトン腫瘍は間葉幹細胞から複数の方向へ分化する可能性があることを示唆している。この腫瘍には良性のものも悪性のものも在る。私はヒトの悪性トリトン腫瘍を1例経験したことがある。
 イギリス・スコットランドで創られたDolly羊は胚細胞(卵子のような生殖細胞)ではない体細胞から人為的に創られた初めての哺乳類である。生殖細胞でない体細胞から生きた個体を創れるという証拠となった。日本の山中伸也先生が遺伝子を組み替えて体細胞からiPS細胞(induced pluripotent stem cell、 人為的に作った多機能幹細胞)を人類初めて創ることに成功した。その後、神経幹細胞,網膜幹細胞、間葉幹細胞、心筋幹細胞などを活用して様々な病気に対する再生医療が研究されている。近い将来、実際の治療に活用されることが待たれる。その時、注意すべきは悪性トリトン腫瘍のように、癌が出来てしまうことのないようにしなければならない。
IS

     再生医療幹細胞胚細胞iPS細胞 | Dolly羊
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