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第15回市民公開シンポジウム 医学・医療の過去・現在・未来 講演(6)要旨

講演(6)健康生成モデル―ストレスに対処する力 西山悦子

西山悦子  私達は病いからの解放を希求している。健康社会学者のアーロン・アントノフスキーは「何が健康を創るのか?」の発想から、健康生成論を打ち立てた。従来の医学は「疾病はいかにして創られるのか」という観点から、疾病を発生させ増悪させる因子(リスクファクター:risk factor)とその軽減もしくは除去の方策についての膨大な知識と実践を行ってきた。それに対して健康生成論は、健康はいかにして回復され保持され増進するかという観点から、そのための因子を健康要因(サリュタリーファクター:salutary factor)と命名し、その支援と強化を図ろうとする理論である。健康生成論は疾病生成論を否定するのもではなく、疾病生成論と健康生成論が相互補完的に、車の両輪のように発展させられなくてはならないものとして提案された。
 アントノフスキーは、人々の健康を、単に疾病の有無によってではなく身体的、精神的、社会的、スピリチュアルな側面といったトータルにみる見方をしている。人々は「健康−健康破綻」のどこかに位置し、この連続体上の健康の極側へ移動させる要因を健康要因と呼んだ。たとえ死にゆく人々に対してであっても、やすらかに死を迎えられる人々が共通にもつ特性や要因を強めたり補完したりしようと働きかけるのが、健康生成論的アプローチである。
 人が川の流れ(人生)のどこに立っていようとも―流れの性質は歴史的、社会的、文化的、物的環境条件によって決まるが―上手に泳ぐ能力は何によって形成されるか、アントノフスキーは健康生成モデルから、人がどの程度上手に泳ぐか、その大部分はその人のSOC(sense of coherence:首尾一貫感覚)によって決定される、とした。
 SOCはその人の人生志向性(生活世界に対する見方・向き合い方・関わり方)における次の3つの確信の感覚から成る。
@ 握可能感(自分の内外で生じる環境刺激は、秩序づけられ、予測と説明が可能なものであるという確信)
A 理可能感(その刺激がもたらす要求に対応するための資源はいつでも得られるという確信)
B 意味感(そうした要求は挑戦であり、心身を投入し関わるに値するという確信)
 SOCは良質な人生経験によって形成され、ストレッサーが創出する緊張処理の成功体験によって強化される、といわれている。